渓 流 随 想 (二十三)

漆沢の尺岩魚

1982年から通い始めた鳴瀬川の支流-漆沢は仙台の
北にある。
最初のいきさつは「随想32-夕日沢」で書いたので、今
回はその「尺の時」に話を絞ろうと思う。

1986年七月二十四日
梅雨明け宣言がされないまま、今年もはるばるやって
来た。2〜3日前まで降ったり止んだりしていたとの事
で、増水が気になるのだが。
「増水で入れないかも」、「増水で大物が出るかも」果
たしてどっちなんだろう。

    漆沢ダム(随想夕日沢も同じ写真)
     漆沢ダム(随想夕日沢も同じ写真)

そんな期待と不安とが入り混じる切ないほどの釣り師
の心持を乗せて車を走らせ、底をこする度に思わず腰
を浮かせながら林道を詰める。
漆ダムはかなりの水量で満たされていたがダム上流
はチョット多め程度だ、「イかったー」と急いで支度を整
え上流を目指す。

最近は手前があまり釣れないから二股へ急ごうと思い
ながらも、林道が崩れて渓に降りれば結局竿を出さず
におかりょうか。
結局竿を出すがしかしやっぱりアタリ無しで二股着、そ
れどころか二股過ぎても小物だけ。
渓相は相変わらず良いのだが・・・。

     ダム上流(93年五月の増水時)
     ダム上流(93年五月の増水時)

前日あたりに入渓者がいたのかも、などと考えていると
証拠発見!八寸弱のイワナが落ちていた。
見知らぬ釣り人の良型を取りこむ姿が脳裏をかすめる、
「釣られた直後で駄目かもしんないなー」。悪い予想は
当たるもので、昨年2匹の良型が釣れた落ち込み下の
淵さえナンの手応えもありゃしない。

そうなると疲れは出るでる腹は減るの反比例、気が付け
ば昼はとうに過ぎていた。昼飯だまだ口をモグモグしな
がら目の前の大石裏へオニチョロを落とす、スッと糸が
張る!合わせると八寸岩魚。
一気に目が覚めた< 寝てたんかい!>。

一昨年に泣き尺を釣ったポイントがすぐそこだ、とたんに
釣り師の姿を取り戻し腰を低く・頭を低く、じわりそろりと
ポイントへ。

     初の尺(てんからアニメバナ−もこれ)
     初の尺(てんからアニメバナ−もこれ)

そこは一見たいしたポイントには思えないところ、石ころ
と小さな流木が重なって20cmほどの段差を造っている
。その程度だが落ち込みの裏にエグレがあるらしい、そ
こに岩魚が潜むのだ。
2cm5mmの取っておきオニチョロを差し出す様に流し
込む、水音が耳鳴りと化し他になんの音も聞こえない。

時が止まる・・・・・・、
糸を張る、居る・・・・小さく鋭く合わせる!、
ググー!一気に抜き上げた。

バタンバタンと跳ねる岩魚を見るまでもなく尺物を確信し
ていた。

最近のネット情報によると林道工事が奥へ進んだことで
入渓者も多くなり、ゴミも増えてメッキリ魚影が減ったと
言う。

更に渓そのものも埋まってきている事も重なってか、
分と型も悪くなっているそうです。

久し振りに訪れたい気もするが、思い出の尺岩魚の渓
(たに)の寂しい現状を
見たくない気もしています。

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