渓 流 随 想 (二十四)

摺上カラス川、心に残る渓

1980年
渓流釣りにはまって五年目すっかり虜(とりこ)に成ってし
まい、このシーズンは5月30日がすでに七回目の釣行に
なった。

福島県へは前年に奥久慈へ入ったがそれは北茨城の続
きと言う感じであるから、正規の福島入りとは認めがたい。
ルートの違いからも、飯坂となれば初めての福島入りであ
る。
前夜に出発し矢板のパーキングでひと寝入り、飯坂温泉と
穴原温泉を抜け茂庭から名号まで、くねくねと摺上川添い
を行く。
カラス川の林道に入るとすぐにゲートに阻まれた、残念と
思ったが後で思えばそれが良かったのだ。

          温泉地の少し上流、釣人あり

支度を整え竿を携えて歩き出す、さていよいよのこの気分
が松本イイーヨ 。・・/*
しばらく歩くと林が切れて視界が開け左手にその流れが見
えてくる、清らかで豊かな水量が駆け下る素晴らしい渓流
である。
そしてイワナが釣れたなら言う事無し、期待に胸がはちき
れそうな心境で最初の堰堤から入渓する。

提の上は当然ザラ場だがすぐに渓流を取り戻し、と同じに
小型のイワナが釣れてきた。型はどおあれ初めての渓で
の初めてのアタリ、いいもんです。
次は長細い淵の尻、チラリとうごめく気配がし、岩陰からそ
の1mほど上へキジをそっと落とし込む。目印がポイントを
通過して流れ出しに向かって浮き上がる、そこでピィッ!と
合わせれば七寸級が来た。

水量豊富な渓流は探り甲斐が有って楽しい。
もう一基堰堤を越え渓流が回復すると、型道理の落ち込
みで今度はヤマメの18cmが続けて二匹。
順番が違うけど両方が釣れるのは嬉しいもの、普通ならヤ
マメの後にイワナが番順だ。さてこの先が楽しみだが明日
に残しておこう。

翌日はその先まで歩いてから入渓する、その辺りは存外
ザラ場が多くなったがイワナは居た。
結局二日で10匹以上を釣ったのだから私にしては釣れす
ぎ、しかしこの日出会ったルアーマンの魚篭には二十匹
ほどもが折り重なっていた。
ゲートがあることで釣り人を制限出来ているのだろう。

           
ところで
渓流情報というものは釣れる場所は簡単には明かさない
ものですよね、解っている人はすぐに合点がいったと思い
ますが工事中なのです。
「随想28裏磐梯」の時(92年9月)にすでに入渓禁止に
成っていたのは、始まる摺上川のダム工事の影響だった
のだろう。
日記99−3に記したが99年の9月9日にも久し振りのカ
ラス川を目指した所、ダム工事の真っ最中にぶつかり驚
いてしまった。
茂庭の先に広大な荒地とワダチとキャタピラの跡、いずれ
巨大な要塞が出現するのだ。

ダム上流に流れ込むカラス川が何故禁漁かと言うと、工
事の石材を採取しているのだ。
発破を架けての大規模な工事である、工事が終わっても
あの素晴らしい渓流は全く別なものに成ってしまうのでは
ないかと気掛かりだ。
「工事が終了しだい尋ねてみよう」と考えている一方で、
恐らく二度と尋ねる事は無いのかもしれないと・・・。

自然の渓流が消えて行くと言う事は思い出の渓が増える
と言う事、減少するのみの綺麗な渓流を残して行く方法は
無いものでしょうか。
 
記2001 2/23

              
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