渓 流 随 想 (十)

木ノ根沢、確かに29cm

本棚の整理をしていて何枚かの写真が出てきた、日付け
毎に整理したアルバムに入れなかった半端ものが十数枚

その中に同じ岩魚が2カットある、忘れていた訳でなく登
場するチャンスに恵まれなかったのだ。

当時ではおそらく大物記録と思われる良型岩魚を持ち帰っ
て写真に収めたものだが、前後の写真が全く繋がるものが
無い。
更に蛍光灯の下で撮影した為に色が悪いときて、泣き尺と
も言える29cmにもかかわらず粗末な扱いを受けていた。

  やっと登場、泣き尺岩魚

1983年
夏真っ盛りの8月4日、湯ノ小屋温泉の上の楢俣川を目標
に出かけのだが、ダム工事が始まっていて入れなかったの
だと記憶している。
一方の支流である木ノ根沢は以前にイワナとヤマメを数匹
釣った事があったが、道路添いで有る事がいまいち面白み
に欠ける。
そう思いつつ車を走らせていると堰堤の直ぐ上に流れ込む
支流が目に入った、流れ込みしか見えないその先にどん
な流れが隠れて居るのだろうか。

居る事が解っている本流よりも未知の支流に誘われて堰
堤上の砂利を歩き、対岸の沢に誘い込まれて行った。砂
利が多くて渓相が良いとは言いがたいが、それでも急カー
ブでは水流がまとまり石の裏には深みが出来て、何か居
そうなたたずまいを見せる。
探りを入れると20cmほどのイワナが釣れてきた、未知の
支流に誘われた甲斐があった。

           ペイントで書いて滝の切りぬきを乗せた

渓相が良くない分、返って入渓者が少ないのかもしれない、
と気を良くして釣り上がる。
日差しは暑いが日陰は涼しい、そんな感じが嬉しくもある
渓流釣りだが涼しいのを通り越して寒気がする。
滝だ、10m程の空中を飛沫を上げて落下する直瀑に突き
当たったのだ。

滝を越えられるような地形ではない、後は引き返すしかな
い行き止まりである。1mちょっとの仕掛けを滝壷に向けて
倍ほどの長さに取り替える、もうここしかないのだから丁寧
に慎重に成らざるを得ない。
一番元気なオニチョロに特攻を託し、白泡の切れ目から落
としこむ。

狭い滝壷の複雑な水流にうごめく目印がピタリと止まった、
一発だ。
ほんの少し竿を上げて聞いてみる、クック・・・間違い無い。
「小さく鋭く」釣り雑誌で読んだ通りの合わせをくれる、その
反動のような引き込みも書いてある通りに「ググッ」と来た。

      頭と尾は尺物と

「岩魚」と漢字で書ける型で有る事は間違い無く、嬉しいと
同じに「バラシ」の恐怖が背筋を走る。
無事ネットに納めたが、引きの強さと滝壷というシチュエイ
ションから想像したよりは若干小さ目に感じた。

しかし見ると、頭と尾ヒレは十分に尺物のそれと思われる。
勝手な推測だが餌の不足が体の成長を遅らせているが頭
蓋骨と尾ヒレはそれなりの形を成しているのではないか、
餌さえ十分なら勇に尺を越えているのではないだろうか。

肝心のこの沢は何処なるや、比較的新しい地図を開くとそ
れらしき支流が二本ある。
手小屋沢と大沢で大沢には大瀑と記された滝もあるからお
そらくこれであろう。当時は道は無かったと思うが地図には
林道が書かれている、はたしてその流れは健在なるや。

記2001 1/23

               
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