渓 流 随 想 (十二)

烏川、金色の岩魚

最近渓流釣りを始めた人の場合「岩魚は虹鱒に良く似た
色をしている」と思っている人が多いのではないだろうか。
温泉宿でも虹鱒をイワナの塩焼きと称して出している所も
あり、「これはチャゥ!」と言われないのだそうだ。

   一時期はこのタイプが放流されたようだ
          (東北のアメマス系イワナ)

釣りを始めた1975年岩手の安家川で最初の岩魚に出会
ったがこれは当然アメマス系である。
関東地方でも現在釣れるのはほとんどこの系統の放流物。
黒から銀色のまだらグラデーションに白い斑点がちらばって
いる。
釣れる場所によって白っぽいか黒っぽいかで、いわばモノト
ーンである。

翌月に一人、電車とバスを乗り継いで群馬の烏川へ出かけ
た。高崎からバスで小1時間権田の権田館に立ちよって宿
を確保し、次のバスで月並下車。
川沿いの砂利道をテクテク・テクテク、新開あたりから入渓
する。しかし初日は10cmに満たないヤマメが釣れただけ、
下流すぎたのだ。
翌日は暗いうちに宿を抜け出し上流へ、(テクテク×2)×2、
小さな橋の下に小滝状の落ち込みが在り20cmのヤマメが
釣れる。当時は水も綺麗で好天に恵まれ、真っ青の空の下
「渓流っていいなー」読み返へすノートにそう書いてあった。

その少し上に2mほどの滝が日に照らされて輝いていた、真
っ白な泡が切れると底石がはっきり見える。
一投で掛ったイワナは黄金色に光っていた。

頭部から背ヒレあたりは茶褐色だが腹は真黄色、体側は金
色でオレンジ色の斑点がちりばめられている、安家の岩魚
とはまるで違うその姿に目を奪われたものだ。
25年も前の事だがこの時の岩魚は良く覚えている。

暗い場所では茶褐色だが底石が明るくて日の当たる所に清
冽な流れと、条件が揃えば金色に輝くのだ。

       日光岩魚、カメラが安物で映りがイマイチ

その後、西那須野の小蛇尾でも同じような岩魚が釣れたか
らニッコウイワナが貴重な存在になってしまうとは思いもしな
かった。
上の写真は1976年小蛇尾の岩魚だが貴重な写真かも知
れない、ここも10年以上も前からモノトーンイワナに変わっ
てしまっている。

この記事は1990年代に気付いた事を書いたもの、現在は
ニッコウイワナの養殖・放流が
行われているから釣れるイワ
ナはほとんどそれだ。
同時に
天然イワナと放流イワナの交配が進み、 ニッコウイワ
ナの原種はさらに
減少していると思われる。

2002年6月 富山県遠征で正に黄金の岩魚と遭遇、立山
には未だに天然の日光岩魚が生息している。その谷を黄金
の沢と名付けたが他の谷にも実に美しい岩魚が生息してお
り、嬉しい限りだ。
何時までも守って行きたい、宝物のような存在である。


              
随想記メニュー