渓 流 随 想 (三十一)

美しき一ノ戸川 (いちのと川)
一ノ木、蔵の宿

飯豊連邦から流れ出るこの渓流は清らかな流れである。
特にこの時期、残雪を残して輝く山々がバックコーラスを
努めていっそう美しい。

何故ここに来たのかと言うと、たまには福島北部へ足を伸
ばしてみようかと地図を眺めていて「一ノ木」と言う地名が
目にとまった。
なぜかその響きに惹かれるものを感じ、そして一ノ戸川も
よさそうだと勝手に思い込んだだけの事ではあった。

     [残雪の山をバックにきらめく一戸川]

前日に降った雨のために地面が濡れており川も増水して
いたが、一ノ木を過ぎて大きな堰堤を越えるとささ濁り程
度のいい感じである。

早速に竿を出してみると一時間ほどで釣れたのは7寸ほ
どだが、ここの景色に負けない実に綺麗なピンシャン・イ
ワナだった。
「よーし」と呟いてリリース、明日に期待して宿を確保する
事にする。

       [岩の上に21cmの綺麗な岩魚]

一ノ木に戻ると「倉」の民宿、「蔵」だったか定かでないが
看板が目に止まり泊めてもらう事にした。最近改装したら
しく真っ白な壁で、中の作りはさほど変わった様子は無か
った様な気がする。

客は私だけだったが朝起きてみるともう一人が隣の部屋
に泊まったらしい、隣と言っても障子で仕切られているだ
けだ。
朝食を済まし、お勘定を払っていると、
「イヤー参った・・・」などと言いながらとなりの客が顔を出
した。

宿のオカミさんが「本人はわかんねーだよ」と笑いながら
「だいぶ歩いたんダッぺー」と。何の事か解らずに「くら」を
後にした
イワナが待っているのだから。

昨日の場所から上へ入る、濁りはすっかり取れて青空を
写し輝くようだ、しかしお魚さんの方もすっかり・さっぱりし
たものでまるで反応が無いではないか。
二番手どころか三番手もお留守番も居てません、支流に
お伺いを立ててもあきまへん。ほなサイナラ!

       [真っ白い壁の蔵の民宿]

手ぶらでご帰還だ後に残ったのは「くら」での意味不明の会
話だけ。
「イヤー参った・・・」と「本人はわかんねーだよ」。

ふと思い出した、取引先の招待で各地から集まって旅行を
した時の事。
二人部屋で初対面の人と相部屋になり、二泊目の夜中に
物音で目が覚めた。相手がスタンドの明かりを付けて何やら
書きものをしている、イヤ・していやがる。
時刻は解らないが夜中だ、「まいちゃうなー」と不機嫌な声
で寝返りを打ってやった。
すると、
「言うまいと思ったけど・・イビキがひどくて眠れないんですよ」
更に「昨日は我慢したけど」・・・<*@ % # >・・・。

             随想記メニュー